花男 (1)

2004年5月24日 読書
ISBN:4091857310 コミック 松本 大洋 小学館 1998/10 ¥900

最近(でもないな。結構前か。)では、「ピンポン」の実写映画化で話題にもなった、松本大洋さんの作品です。
ピンポンよりも前の作品のため、自分絵風も違いますね。この頃のほうが、線や絵の描き方がやわらかくて好きです。

話の中心となるのは、野球好きで巨人軍を愛し長島茂雄を愛する花田花男と、その息子の茂雄の二人。父親は子供そのまま大きくなったような感じで、いつの日か巨人の4番打者になることを夢見ている。息子は大人になった「つもり」でいるような、よく言えばできた子供、悪く言えばひねくれている。息子は、働きもしないで日々野球にぼっとうし、叶いもしないような夢をいまだに見続けていることがいやでいやでしかたなく、母親と暮らしていたが、夏休みに入るとその母親から父親と暮らすことを強要され、2人のばたばたした生活が始まり・・・・。
そんなストーリー。

この本の読後の感想は、「羨ましい」ですね。花男のどこまでも自分の夢を追いかけ続け、そのためならば他人の目などは気にしない。一見、常識がないんじゃ?と思うような行動でも、花男なりの考えがあってのこと。それがわかるには少々時間がかかったりもしますが、その不器用なところもまた愛すべきところかもしれません。その花男から、不器用な愛情で見守られる大人びた息子の茂雄。彼もまた羨ましい対象になりえます。父親の行動が、発言が理解できない。自分に必要なのは、将来のための勉強であり、他の何を犠牲にしてもしょうがないと考える。最近の子供は、こんな子が多いのかな?とも思います。自分では将来のために、とは思うものの本当は何のための勉強かは理解できず、ただtだこなしていく。
花男はこんな息子に「本当の事」を教えていきます。教える、というのもまた違った言い方ですね。「感じさせる」と言ったほうがしっくりきます。この「本当の事」というのは小難しい「真実」なんてものではなく、もっと単純。楽しいときには笑い、悲しい時には泣く。海に入れば冷たいし、疎外されれば寂しい。
花男のすばらしいところは、高慢に教えたり指導したり言い聞かせるのではなく、自分も本気になって一緒に行動し、自然とわかってもらえる雰囲気までつきあうことができる。父親としては生活力もないし、毎日野球ばかりと決して見本にはならない男が、本当の事を伝えられる人間である。これは大事なことかもしれません。子供は親の背を見て育つ、よく聞く言葉ですが、実際に自分の背中を子供に見せられるような自信のある大人というのは、あまり存在しないかもしれません。
物語のラストシーンで花男は、息子である茂雄に頼ってしまいます。夢を現実にした花男は、現実に迷いを生じます。そのときの花男に夢を思い出させたのは茂雄であり、夢を信じ続けることの素晴らしさを茂雄に感じさせたのは花男です。このシーンは感動できます。

ま、いろいろ難しいことを書いてますが、実際はもっと気楽にのほほんと楽しめる漫画です。花男のおばかさんなところも茂雄のちょっとひねくれているところも。愛すべき親子ですね。
ちなみに、作品名は「はなおとこ」で父親の名前は「はなお」です。

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